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執筆者の写真田中 利幸

『虚実』~稽古の段階~

稽古の初期段階では、相手としっかり正面からぶつかりあって、互いを練り合います。

実と実のぶつかりあいであり、始めから終わりまで実で満たされた状態です。

この段階では、ぶつかりあいの中で、肉体を鍛錬しつつ、互いを支え合うことができる整った姿形へと自然に辿り着いていきます。

静止した姿形を整える段階であり、タイミング、呼吸、拍子といった時間的な要素はまだ重視しません。



実と実のぶつかりあいの中でも、力を抜き姿勢で支え合うことができる様になると、次の段階へ移行していきます。

実と実の間に短い虚が現れる段階です。虚が入ることで動きに拍子が生まれます。


意図的に虚を入れるというよりも、まるで水泳で息継ぎをするように必然的なタイミングで虚が生じ始めます。

この段階の稽古で、虚の数が増え、虚の長さも増していきます。






やがて、実よりも虚が占める割合が多くなります。次の段階である、虚の中に実が現れる段階です。

この段階で、これまでの、実の中に虚が生じていると感じる状態から、虚の中に実が生じていると感じる状態へ移行します。



しかしまだ、実を生じさせることを意識的に行っており、狙いや計画が残っている可能性があります。



技をかけようとか、上手くやろう等といった意図を捨てて行くと、全てが咄嗟の動きになってきます。

意図せず、我知らずの内に咄嗟に動く段階です。虚に満たされた段階です。

凪いだ池の水面が月を映す様な心身の状態です。

私達は日常生活の中で数多くの咄嗟の動きをとても上手に日々行っています。

ですからこの段階は、特別な状態ではなく、やっと普通の日常の状態になった段階であるといえます。


そしてまた、実に満たされた段階の稽古に戻っていきます。

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