top of page
執筆者の写真田中 利幸

「隙が無い」とはどういうことか

隙が無いように稽古しなさい、といわれます。


では、「隙が無い」とは具体的にどういうことでしょう?

どのような状態なのでしょう?

先の事を予測してあらゆる事象に対し、対策を張り巡らせていくことでしょうか?


今から起こり得る全ての出来事に対して、完璧な選択肢を準備できれば隙が無い状態なのでしょうか?


いいえ、選択肢の準備だけでは不十分です。


なぜなら、実際に何かが起こったとき、準備した選択肢の中から適格なものを選択し、迅速にそれを実行しなければいけません、間違えることなく遅れることなくです。

全てに対応できる選択肢を準備しておき、最もふさわしい選択肢を、最も的確なタイミングで実行できる必要があります。


この様な考え方は「相手がこうしてきたら、こうやって返す」といったいわゆるハウツー(How to)的な考え方です。

そういったハウツーを沢山集めて習得すれば隙が無くなるのでしょうか。


武術や格闘技の多くには構えがあります。

「隙の無い構え」などと言ったりもします。

では、あらゆる事象に対して隙の無い構えというものが存在し得るのでしょうか?

または、全ての事象に対応し得る様々な構えを作っておけば、隙が無くなるのでしょうか?


先ほどのハウツーも構えも、自己の外側、つまり相手へ注意を向けることに集中した取り組み方です。

相手の状態へ意識を置いている状態です。


無限に存在し得る相手の状態に対し予め準備することは、まるで無限の平面を筆で塗りつぶそうとする試みの様に思えてきて無理を感じます。


では逆に、自己の内面へ注意を向けた取り組み方があるとすれば、それはどのようなものでしょう?


それは、自分の外側で起こっている出来事よりも、自分の内側で起こっている出来事へ集中することです。


具体的には、自らの身体と心の状態を常に観察して整え続けていくことであると私は考えています。

自らの姿勢のくずれ・呼吸のみだれ・力み・痛み・心の乱れを正直に観察し、それらを解消しつづけるという取り組み方です。

まず整った自己の状態(ゼロの状態)があり、そこからの乱れを整え続けるのです。


乱れたところに隙があるのだとすれば、このような取り組み方も良さそうです。


ここで一旦論点を変えて、「隙が生じる原因」はなにか?を考えてみます。


隙と言うのは、注意が行き届かず、気が付きにくい隙間の様なものでしょう。

人間には、前後があり、前の方が注意が行き届きやすく、後ろは隙ができやすいといえます。

では、前も後ろもきょろきょろと見ていれば隙が無くなるのかというと、後ろだけではなく左右や上にも隙があります。

下にも隙があるかも知れません。

この様に考えて、隙ができる原因は、「人間には前がある」からであると私は考えています。

このことを突き詰めていくと、「物体として、個として存在していること」が隙ができる原因であるという考えに至ります。


「存在」=「隙」


存在しないものには隙など生じることはないでしょう。

存在しないことは無敵の状態です。


私達が、個として存在しつつも、できるだけ隙がない状態とはどういう状態なのか?

存在するものである私達が、如何に存在しないものに近づけるのか?


私達にとって、存在を維持するために最低限必要なものである肉体と、

存在していることで自然と行っていること、呼吸、姿勢、五感。

これら以外のことにはできるだけとらわれないことこそが、隙の無い状態に近いのではないでしょうか?


私達が存在である以上は完全に隙が無くなることは無いでしょう。


ただ立ち、ただ呼吸し、ただ存在している。


目的も、狙いも、計画もせず、ただ咄嗟に動く。


静かな水面のように、ただ在る。


隙が無いとは、そういうことではないかと私は考えています。

閲覧数:48回0件のコメント

最新記事

すべて表示

ごらん世界は美しい

「ごらん世界は美しい」 この言葉は、手塚治虫さんのマンガ『ブッダ』の帯に書かれています。 この言葉の元になったのは、晩年のブッダが弟子のアーナンダに語った内容だと思われます。 その内容を要約すると、 「さまざまな場所はどこも楽しい、 この世界は美しく、人生は甘美なものだ」...

「どうして君は、他人の報告を信じるばかりで、自分の目で観察したり見たりしなかったのですか」

「どうして君は、他人の報告を信じるばかりで、自分の目で観察したり見たりしなかったのですか」 これは、息子が幼かった当時に、書き方教室の展示作品の題材に選んだ言葉で、今もこの息子の作品は我が家に飾られています。 ガリレオ・ガリレイの言葉とのこと。私はこの言葉がとても気に入りま...

Comentarios


bottom of page