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執筆者の写真田中 利幸

「傍観者効果」と「ファーストペンギン」と合気道 ~佐久へ想いをよせて~

”2023年5月、佐久道場国際研修会および合氣道佐久道場創立30周年、佐久合氣道会創立35周年祝賀会が開催されます。懐かしい面々が集っている様です。おめでとうございます! 佐久へ想いをよせながら、私の切り口で書きました。”


「傍観者効果」

社会心理学における集団心理を表す用語の1つ。

自分以外の傍観者が多ければ多いほど、率先して行動を起こせなくなる心理のこと。


この心理は以下の3つの考えによって起こるとされています。



①多元的無知:みんなが行動していないので緊急性は無いと考える


②責任分散:みんなと同調していれば責任は分散されると考える


③評価懸念:みんなと違う行動を起こすと非難されるのではと恐れる



外を歩いている時でもマスクを外せない心理や、

クラスでいじめを目撃してもそれを止めない心理、

津波が来ても逃げない心理、

町内会やPTA等の無益な行事等を廃止しようと言い出せない心理、

バイキング料理を一列で並んで取りに行く心理などなど


この傍観者効果の力は強く、殆どの人はこれに支配されます。


傍観者の存在は、その状況を維持する強固な壁となりますが、傍観者自身は、自らがその状況を維持する役割を担っているという自覚は無い場合が多いのではないでしょうか。


しかし、マスクを外せない子供たちが更にマスクを外すのが恐くなり、いじめられている人たちがもう誰も助けてくれないと思い込む状況の維持を傍観者が担っているのです。


その傍観者効果による膠着状態を打ち破るのがいわゆる「ファーストペンギン」です。


ペンギンの集団で最初に海に飛び込む1羽のペンギンのことですが、海の中にはシャチ等が待ち受けているリスクがあります。

ファーストペンギンは時に傍観者から罵られたり迷惑がられることもあるでしょう。そういったリスクもあります。

ファーストペンギンとはリスクを恐れず率先して行動する人を褒めたたえる言葉として使われる様です。


しかしこのファーストペンギンの行動には、ギャンブル性が潜んでおり、ギャンブル特有のスリル(ドーパミン分泌による快感)が原動力となっているという考え方もある様です。

またさらに、本物のペンギンの場合は、自ら飛び込むというよりは、押し出されて落とされているという悲しい説もあるようです。手放しで褒めたたえるのも危険かもしれません。


さて、ここで話題を合気道へと移します。


合気道の稽古においても傍観者またはファーストペンギンとなっている人がいると私は思います。


権威や伝統や他者の評価ばかりを気にしている人は傍観者たりうるでしょう。

あの師範のやり方はこうで、この師範のやり方はこうだ等と述べるばかりの人も傍観者であり評論家でしょう。

評論家というのは自らは実践しないで外から眺めて感想を述べている人の事です。


合気道やあらゆる武道・芸道の本質は「変化」にあると私は考えています。

その時その時の状況に合わせて変化するということです。

状況や環境は無数にあるので、それに呼応して、変化もまた無数にあり、正に千変万化するのです。

「変化」の源は「柔かさ」であり、その源は「自由さ」です。

ですから私達は合気道の稽古を通して「変化」を志し、「柔かさ」を取り戻し、「自由さ」を求めているのだと思います。


また、合気道・武道・芸道は命のやりとりであると私は考えています。

自らの命の問題、相手の命の問題について真剣に取り組むのが稽古であり、稽古を通じて「命」即ち「生きる」ことは「動く」ことであり「動く」ことは「変化」することを実践するのです。


命・生きる・動く・変化・柔かさ・自由さ


どちらが正しいのか?何が正しいのか?分からない時、傍観者となるか?ファーストペンギンとなるか?それは個人の問題ですが、少なくとも、道場の中だけでも皆がファーストペンギンとして振る舞うことができると良いのにな、と私は思います。

道場の外ではなかなかできない経験「命の問題」を安全な道場の中でしているのですから、ゼロから真剣に自分で感じ、考え、決定し、行動したいと私は思うのです。


今も世界のどこかで様々な命の問題が起きており、それらの問題に対して私は傍観者となって見て見ぬふりをしています。ということは、私はそれらの命の問題を悪化させる一助となってしまっているはずです。

そのような無知で無力な自分自身と知りつつ、悪あがきを続けているのです。

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