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虎の巻(解説)


私が学生の頃はいわゆるカンニングペーパーのことを「虎の巻」と呼んでいました。

(私は決して優秀ではありませんでしたが、虎の巻を使うようなことは致しませんでした。)

ところでこの虎の巻ですが、鬼一法眼(きいちほうげん)という人が書いたといわれています。

その内容は次のようなものです。

来たれば則(すなわち)ち迎え、

去れば則ち送り、 対すれば則ち和す 五五の十

ニ八の十

一九の十 是(これ)を以て和すべし 虚実を察し、陰伏(いんぷく)を識(し)り、 大は方処(ほうしょ)を絶(た)ち、細(さい)は微塵(びじん)に入る 殺活(さっかつ)機にあり、変化時に応ず 事に臨んで心を動ずること莫(なか)れや

この鬼一法眼は平安末期(今から約850年前)、源義経と関わりのある武術の達人とされていますが、実は伝説上の人物のようです。また、この虎の巻は、古代中国の兵法書「六韜(りくとう)・三略(さんりゃく)」の「虎韜(ことう)」に由来していると言われています。

実際には、何時?、誰が?、この虎の巻を書いたのかは定かではないようですが、それでもこの虎の巻が日本武術界で秘伝・奥義として語り継がれてきたのは、その内容が完結で解りやすく素晴らしいからだと思います。

以下に虎の巻についての私の解釈をご紹介します。

<虎の巻 解説>

私は虎の巻を次の様に大きく3つのパートに分けて理解しています。

(1-1)【基本姿勢】-----------------------------

来たれば則(すなわち)ち迎え、

去れば則ち送り、 対すれば則ち和す

(1-2)【調和のポイント】 五五の十

ニ八の十

一九の十 是(これ)を以て和すべし

(2-1)【陰陽・虚実】----------------------------- 虚実を察し、陰伏(いんぷく)を識(し)り、

(2-2)【空間】 大は方処(ほうしょ)を絶(た)ち、細(さい)は微塵(びじん)に入る

(2-3)【時間】

殺活(さっかつ)機にあり、変化時に応ず

(3)【心のあり方】-------------------------------

事に臨んで心を動ずること莫(なか)れや

まず最初のパートで、【基本姿勢】が示されています。

「①来るものは迎え入れ、②去るものは送り出し、③対峙するものとは調和しましょう。」

相手をどうこうしようという意図も、抵抗する意図もなく、逆らわず調和するという方針です。

”逆らわず調和する”

次に、③の「対峙するものとの調和」における【調和のポイント】が示されています。

「5+5=10  2+8=10  1+9=10 の様に調和するために足りないところを補って調和しましょう。」

相手が強ければ、こちらは弱くなり、大きければ小さくなり、速ければ遅くなるといった逆転の発想です。

”不足を補うだけ”

次のパートは【陰陽・虚実】についてです。

「あらゆる物事には、虚実・陰陽のように表裏・対極があります。見えているものの裏には見えない本質があることを感じていましょう。」

この後に続く、空間と時間についてもこのことが言えるのです。

”必ず反対のものがあり、見えているのは半分だけ”

【空間】について、

「大きな働きは大きく作用し、細やかな働きは精巧に作用します。」

【時間】については、

「殺すも活かすもタイミング次第です。状況は刻々と変化しており、同じ状況は二度とありません。」

刻々と変化する状況に逆らわず、大小の働きかけにより調和していくことが大切です。働きかけるタイミングによって生死が分かれます。

”空間の間、時間の間”

最後のパートは【心のあり方】についてです。

「生死をかけた状況で、拍子(タイミング)をあわせる時であっても、無心・不動心で臨みましょう。」

ここまで見てくると、「心を動じない」ことがとても重要だと言っていることがわかります。

ここでは無心・不動心と書きましたが、私はこれをもう少し解りやすく教えているのが新陰流極意の「水月の位(すいげつのくらい)」だと考えています。【水月の位(解説)につづく】


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